「黒川清氏の招致」 を拒む民主・自由両党に物申す

ジャーナリスト 池田龍夫 2012.7.30
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  福島第1原発事故を検証した国会事故調査委員会(黒川清委員長)が最終報告を提出したのは7月5日。 9日付 「メディアウオッチ第208号」 で、「国会は報告の具体化を急げ」 と指摘したが、1カ月近く経っても国会の反応は鈍く、 「7提言」 を盛り込んだ事故検証報告を生かす努力が見られない。党利党略のみに走る国政の劣化に、国民の不信感は募るばかりだ。

  参考人招致は全会派の一致が原則というが…
  朝日新聞7月29日付朝刊は、「国会事故調の委員長招致、民自そろって抵抗」 の見出しで、 「事故調の提言を尊重する自覚のない国会」 の無責任さを厳しく追及していた。 同紙によると、「26日の参院環境委員会で、民主党を最近離党した谷岡郁子議員(みどりの風)が 『黒川委員長を呼んで事故調査についてただすのは、 国会が果たすべき役割だ』」 と主張した。しかし松村祥史委員長(自民党)が、参考人招致は全会派の一致が原則だとして、応じる気配がない――という。 黒川氏招致には、新党 「国民の生活が第一」 や 「みんなの党」 が同調したものの、民主党と自民党が応じないとは、とんでもない話ではないか。

  国政の責任放棄ではないか
  そもそも国会の発議によって 「国会事故調の検証」 を求めながら、検証結果を原子力行政に生かそうとしないとは全く不可解。 民主党には 「今後の原発再稼動にブレーキがかかる」 との懸念、 自民党には 「50年余の電力会社との癒着の過去」 が暴かれることを心配しての拒否反応と推察されるが、国政の責任放棄と言わざるを得ない。

  「国会に原子力に関する常設委員会」 設置を
  既に指摘したことだが、4つの事故調の中で 「国会事故調」 には15億円もの予算をつけ、国政史上初めて国政調査権が付与された機関である。 在野の委員10人による調査・証人喚問によって、事故の構造的問題を洗い出し、改革すべき提言を公表した。
  7提言の第1項に 「国民の健康と安全を守るために、規制当局を監視する目的で、国会に原子力に関する常設の委員会を設置する」 よう要望している。 そして 「この委員会には、最新の知見をもって安全問題に対応できるよう、事業者、行政機関から独立した、 グローバルな視点を持った専門家からなる諮問機関を設ける」 と記載されている。
  1年4カ月経っても事故現場には立ち入れず、16万人もの住民が避難を余儀なくされている現状を今後どう打開していくのであろうか。 国会事故調の641ページにも及ぶ報告書には、過去の原子力政策のズサンさが指摘されており、今すぐにでも実行可能な問題点が山積している。

  社団法人・自由報道協会(上杉隆代表)は8月1日、黒川清氏を招いて論議するという。 本来、国会がやるべきことを放棄した結果とはいえ、情けない話ではないか。 今からでも遅くはない。国会が全会一致で 「黒川氏招致」 を決め、原子力政策の一新に乗り出してもらいたい。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。